研究終了報告書における顕著な成果(H27年4月〜R1年10月)

優れた基礎研究としての成果
1. ヒートポンプ給湯器のデマンドレスポンス効果を評価
 家庭用太陽光発電システムの固定価格買取制度(FIT)による買い取りが終了し、買取単価が大幅に下落する太陽光発電の「2019年問題」への対応として、ヒートポンプ給湯機のデマンドレスポンスと家庭用蓄電池の活用による家庭用太陽光発電システムの自家消費量拡大の効果について評価を行った。本研究では、ヒートポンプ給湯機のデマンドレスポンスと家庭用蓄電池の活用を目的とし、ヒートポンプ給湯機、蓄電池の予測―計画―運用モデルを構築し、357世帯の実電力消費量データを用いて分析を実施した。その結果、給湯機の最適な運用、すなわち、晴れた日の昼間に湯沸かし運転を行うことによって、従来の夜間運転に比べて、平均で年間5800円のコストメリットと、8%の省エネ効果をもたらすことが分かった。このとき家庭用太陽光発電量の自家消費率は32%から45%へ増加し、家庭用蓄電池2~4kWhを導入した時と同等の効果があることを確認した。
2. エネルギー需要モデルの開発
 居住者行動は、住宅エネルギー需要の時刻変化を生じさせる最も重要な因子である。本研究では、地域や世帯の特徴を反映した上で、日本全国の国民の時間の使い方を推計する方法を開発した。生活行為、生成パラメータを対象者の個人属性、世帯構成、居住地に関する情報に基づいてロジスティック回帰モデルにより付与することに成功。日本全国の小地域を単位として、各地域に居住する世帯群へ開発モデルを適用した。そのとき総務省統計局が作成したe-statの国勢調査データを用いた。東京都の全小地域にモデルを適用し、生活行為、生成パラメータを推計し、地域の集積状況が生活行為パラメータに及ぼす影響を評価した。
3. 日射量プロダクトの品質保証
 衛星観測やモデルシミュレーションで算出された日射量については品質保証が必要である。これまでの研究から、雲やエアロゾルの時空間的な不均質性の変動が衛星日射量に及ぼす影響が極めて重要となった。本研究では、まずはEMSのための地上システムデータベースの最適化を行い、地上検証観測サイトを選定した。次に衛星とモデルの日射データの誤差評価を行った。その結果、ひまわり8号と全天日射計の相関係数は0.87であったが、ばらつきも大きく場合によっては900W/m2以上の差が生じていた。その原因として、太陽周辺に存在した雲が直接光を反射する、いわゆるradiation enhancementが発生していることが分かった。現在のひまわり衛星日射量推定では3次元放射伝達が考慮されていないが、今後は改善が必要であることが示された。
科学技術イノベーションに大きく寄与する成果
1. 気象・需要データの可視化
 気象・需要データの可視化を行うために地理情報システム(GIS)可視化のシステム開発を行い、当チームで算出している各種EMSデータの提供可能性を大きく広げた。本研究では、まず6時間後までの予測値を可視化するための設計と開発を行った。また、湿度、風向、太陽光発電量なども同時に可視化することでデータの認識性を向上させた。次に日射量データや需要データの一層の活用を図るために、スケーラブル可視化を行った。スケーラブル可視化というのは、データユーザーがwebシステム上で地図をズームアウトすると、町丁目単位→市町村単位→都道府県単位へと表示範囲がシームレスに切り替わるシステムである。スケーラブル可視化の実装により、これまでグラフ表示等では発見が難しかった需要データと日射データの関係性について明瞭に認識出来るようになった。
2. 家庭用エネルギー最終需要モデルの開発
 2030年、2050年における日本の家庭部門エネルギー需要の予測を可能とした。地域別の世帯あたり年間エネルギー消費量において、環境省の家庭CO2統計との比較では、シミュレーション結果が冷暖房を中心とした地域別のエネルギー消費の差異を良く表している。4つのシナリオで2050年のエネルギー消費を予測した。そのうち省エネ徹底シナリオでは、2013年比で40%の削減が見込まれる。集合住宅75%シナリオでは、建物の熱損失や抑制による省エネが認められるが全体では効果は大きくない。戸建て75%シナリオではPVの増加により唯一プラスエネルギーとなった。すなわち昼間時は住宅地が発電所になりうることを示した。
3. ひまわり衛星および雲解像モデルに基づく日射量算定・予測システムの開発
 ひまわり衛星を使った地上到達日射量と太陽光発電出力の現況把握技術の開発および、短時間予測技術の開発を行った。また、雲解像モデルに雲水量と風向の同化技術を適用した予測技術の開発を行った。まず、ひまわりであるが、初期段階として、2.5分毎の準リアルタイムにおける日射量と太陽光発電出力の算出技術を開発した。次の段階として、大気移動ベクトル(AMV)手法を用いたアンサンブル短時間予測技術の開発を行った。予測技術では、雲光学的厚さ、雲頂気圧、輝度温度差の値を元に高高度と低高度のクラスタリングを行うことで最適な流れ場を構築することができた。高時間分解能の特性を活かし、巨視的にも微視的にも整合した太陽光発電出力の供給量と電力需要の情報を得ることが可能となった。雲解像モデルについては、衛星推定雲水量および風向の同化技術を開発し、同化パラメータと日射量の予測精度の関係を定量化することに成功した。
代表的な論文
Yamaguchi, Y., S. Yilmaz, N. Prakash, S.K. Firth, and Y. Shimoda, 2018, "A cross analysis of existing methods for modelling household appliance use", Journal of Building Performance Simulation, 12(2), 160-179.
 本論文は家庭部門エネルギー需要推計の方法論確立に貢献するものである。エネルギー需要を推計する方法には実測されたデータに基づくデータ駆動型のモデル、生活時間データ等に基づいてエネルギー需要が決定される構造を再現する決定構造ベースのモデルがある。モデル構築に利用可能なデータなど文脈に依存して性能や分析能力が異なるが、本論文は既往研究で確立された4種のモデルについて同じ条件の下で性能、分析能力を比較し、モデル設計において考慮すべき要因を明らかにした。
Iwafune Y., H. Sakakibara and J. Kanamori, 2017, "A comparison of the effects of energy management using heat pump water heaters and batteries in photovoltaic -installed houses", Energy Conversion and Management 148:146-160.
 ヒートポンプ給湯機と家庭用蓄電池の活用による太陽光発電システムの自家消費量拡大の効果について検討し、実データに基づいて経済性を評価した。結果、家庭用太陽光発電システムが大量普及していく日本で、ヒートポンプ給湯機と家庭用蓄電池を最適運用させることによって、デマンドレスポンスによる系統の柔軟性向上と省エネ効果を同時に実現することが可能であることが明らかになった。
Okata, M., T. Nakajima, T. Inoue, T.Y. Nakajima, H. Okamoto, and K. Suzuki, 2016, "A study of the earth radiation budget in 3-D broken cloudy atmospheres by using satellite data", Journal of Geophysical Research: Atmospheres, vol. 122, Issue1, pp.443-468.
 本論文では、3次元的に不均質な雲場による太陽放射フラックスの反射、透過を正確に扱うことのできるモンテカルロ型放射計算コードを開発し、実際の衛星データに適用して、雲場の3次元構造が地球放射収支に及ぼす影響を調べた。また、放射収支の観点から雲の3次元構造を特徴付けるパラメータを構築した。本手法によって、従来、平行平板近似による放射伝達計算では大きな誤差を引き起こす3次元的に不均質な雲場が存在する場合の太陽エネルギー算定の方法論が確立できた。
主要な
国際招待講演
Yoshiyuki Shimoda, "Energy Demand Science for a De-carbonized Society in Building/Urban sector", IIASAーRITE Discussion workshop on Rethinking Energy Demand, 東大寺会館 (Sep 2018)
 学術分野としての「エネルギー需要科学」のコンセプトと研究成果を国際展開し始めたところ、オーストリアのIIASAと日本のRITEが共催したDiscussion Workshopで講演の機会を得、エネルギー需要科学の枠組みおよび家庭モデルの2030年および2050年の推計結果について発表した。新規性のある研究であるとして、IPCC第3部会副議長はじめエネルギー需要分野で著名な各国関係者から高い評価を受けた。
Kazuhiko Ogimoto, Key Note "Renewable Energy Integration in Japan", 17th Solar Integration Workshop, Stockholm, Sweden (Oct 2018)
Teruyuki Nakajima, "Earth observation satellites and modeling: Current and future issues", International Radiation Commission (IRC), Auckland, New Zealand (Apr 2016)
主要な受賞
Teruyuki Nakajima, "IAMAS国際放射委員会ゴールドメダル賞", International Radiation Commission, New Zealand (Apr 2016)
 Contributing to research for radiative transfer of the atmosphere and ocean, remote sensing of aerosol and cloud microphysics, and modeling study of anthropogenic aerosol effects to the earths climate.
中島映至, "平成29年春 紫綬褒章", 内閣府, 東京 (2017/4)
 中島氏は長年の研究によって、大気放射学、人工衛星リモートセンシング手法、雲とエアロゾルの気候モデリングについて多大な業績を確立したことに対する褒章である。その結果、培われた大気放射学に関わる研究者と知見は本プロジェクトを支えるために大きな役割を果たしている。
Makiko Hashimoto, "JGR Highlight Paper", American Geophysical Union, USA, (Jun 2017)
 これまで人工衛星から難しかった陸域エアロゾルの光学特性の定量的評価を実現した画期的な論文であるとして、米国地球物理学会誌(AGU/JGR)にてハイライト論文として選ばれた。

ページトップ >

TEEDDAチーム関連ニュースは こちら から 配信

  • メンバー・チームの活動報告
  • 参加学会・主催イベントの報告、関連イベントの通知
  • 研究分野ニュース
  • 国内外のエネルギー関連ニュース など