東海大学 情報技術センター 特定研究員 谷垣悠介

■東海大学での研究

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は気候変動観測衛星GCOM-Cを開発し2016年に打ち上げを計画していますが、この人工衛星が搭載するセンサーによる観測データで雲を解析するアルゴリズム開発を私は行なっています。雲は太陽からの光を反射することで地表を加熱しないように働く一方、地表からの熱を地表に戻すことで地表を暖める効果があります(この効果が無いと放射冷却で寒くなります)。このように地表の温度に強くかかわる雲ですが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の2013年の報告書によると、人間の活動で生じる雲は、人間の活動で地球が加熱される量(正の放射強制力)の半分程度を打ち消すほどの冷却効果(負の放射強制力)を持ち得ることが示されました。しかしながら、その冷却効果は最大に見積もった時の話であり、最低ではほとんど無きに等しいとも報告されています。このように雲がもつ冷却効果は正確な予測が難しいのですが、その原因の一つとして、そもそも雲のなかで水がどのような形で存在し、どのように光を反射するかが十分には解明されていない現状が挙げられます。 私が担当する研究では、雲の中でも最上層に位置するため真っ先に日光を反射するであろう巻雲を研究対象として、これまでの雲の観測結果から雲粒(微細な氷)の形状や空間分布等を推定します。さらに推定結果を基に、これから打ち上げられる気候変動観測衛星GCOM-Cを用いて今まで以上に正確な雲の観測ができる解析システムの一部を構築します。この研究成果は地球環境の将来予測の精度向上に寄与し、現実に則した政策の策定に貢献できます。

■これまでの研究や関連活動

高知大学(学士課程)では航空機から照射するレーザー(LiDAR)で森林をスキャンすることで、広域のブナ林の林冠ギャップ(倒木などで生じた森林上部の穴)の地図を自動的に作成するシステムを構築して、現地の林冠ギャップを生態学的な視点で研究しました。徳島大学大学院(修士課程)では、高解像度の衛星画像(IKONOS)や空中写真を用いて、広域にわたる外来種の竹林の地図を自動的に作成するシステムを構築しました。また、竹が広がる速度を計算し、効果的な防除に役立つ地図も作成しました。しかし、竹と言っても種類によって在来種で広がりにくい種類も有るため種類を分ける必要があると考え、東京情報大学(博士課程)では、多時期で複数の衛星画像からタケの一種であるモウソウチク(外来種)とマダケ(在来種)を区別して広域で地図を自動的に作成するシステムを構築しました。その他、海洋研究開発機構(JAMSTEC)では、レーダー波を用いた衛星画像(ALOS/PALSAR画像)を用いて、ボルネオ島の複雑な地形でもアブラヤシ農園(環境破壊の原因として注目されている)の地図を広域で自動的に作成するシステムを構築しました。また、民間企業で働いていた時はGIS(地理情報システム)を利用した生物種の分布の調査や様々なリモートセンシングデータの処理、外来種の駆除なども手がけてきました。

■研究者としての目標

まだまだ不十分ですが、学而思而共而行而省而復学(学んで、思考して、知を共有して、実行して、かえりみて、また学ぶ)をモットウに日々邁進しています。小学校の頃からプログラミングと環境問題の勉強をしつつ「いつかはプログラミングの力で環境問題を解決したいし、この時代ならできる」と思っていました。大学時代では友人と議論する中で「世界中のデータやアルゴリズムを統合して、シムシティー(シミュレーションゲームの一つ)のようにあれこれ政策を変えながら世界の将来を簡単にシミュレートできる世界シミュレーターを、様々な人が協力しあって構築できるようなシステムを作りたい。それができれば環境問題のような地球規模の難しい問題の解決方法が見つかるのではないか」と考えていました。その想いは今でも続き、世界中の客観的かつ継続的なデータを集められ得るリモートセンシングを使って環境を分析する能力を磨きつつ、世界シミュレーター作成のために今日もがんばっています。

中島研究室 – Nakajima Laboratory – "Dialogue with Blue Planet"
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